ぽりんというのはぬいぐるみです。
ラグナロクオンラインというエロゲ、じゃねえや、ゲームと名がつけばなんでもエロゲだと思うのは悪い癖だからやめたほうがいいかもしれません。とにかくそういうオンラインゲームがあってですね、まゆみさんはずいぶんと長いことそのゲームをやっています。それのやられザコキャラがポリンというのです。このゲームには、モンスターをペットにできるシステムがあって、まゆみさんはゲーム歴と同じくらいの期間、ポリンをペットとして連れ歩いているわけです。全部でキャラが何人いるのかは知りませんが、すべてのキャラがポリンを連れているはずです。
ポリンがいたくお気に入りのまゆみさんとしては、ぬいぐるみが販売されているとなれば欲しくなるのは当然の流れ、ということで、まずは中くらいの手ごろなサイズのぬいぐるみを通販で買いました。それでもおさまらないまゆみさんの物欲は、ついに最大サイズのポリンをも手に入れる結果を招いたのです。
こうして我が家には、二体のポリンが揃うことになりました。
まゆみさんは、ぬいぐるみのポリンを「こぽりん」と呼んでいます。「こ」がなにを意味するのか俺は詳しくは知らないのですが、大きいのと小さいのがある以上、甲状腺癌ポリンとかの略ではなく「小さい」ポリンなのでしょう。
さて、そのこぽりんなのですが、まゆみさんによると、しゃべるそうです。
こんなことを言ったからといって、別にまゆみさんが「だってマバンヤ様が私に命令するから!」とかだれにも見えない守護霊を引き合いに出して周囲を困惑させるような人だというわけではありません。「今日は雨だから電波は低いところを這ってるかな?」とか言うこともありません。それはどっちかっていうと俺です。
ちなみに某女流SF作家に憧れすぎて、聞こえない声が聞こえるようになってしまったのでもないようです。まゆみさんはほぼSFを読みませんから。
常識を相対化できている時点で、まったくの常識人というわけにはいかないのですが、世間的にみて問題のある人でもありません。
しかし、こぽりんはしゃべるのだそうです。
家にいてヒマでやることのないときなど、よくこぽりんと会話をしているそうです。
その内容は「最近どうよ」「リンピが食べたい」「どんなリンピが」「リンピといえばあれですよ。赤くておいしくてぼくの大好きなものに決まってますよ」とかいうレベルのどうでもいいものらしいです。
俺にはぬいぐるみの声は聞こえません。
別に聞きたいとも思いません。
しかし、長年、まゆみさんがこぽりんの言葉を通訳してくれているうちに、俺までその存在に対して違和感を抱かないようになりました。ああ、まゆみさんがいると言ってるし、現にまゆみさんが伝えるところのこぽりんの言葉はいうのは、まゆみさんとはまったく別のキャラといってもいいです。だから、いるんでしょう。
まゆみさんの脳内でどういう処理が行われてこぽりんというキャラが誕生したのかは知りません。が、実際問題として、まゆみさんにはいくつかのキーワードを放り込んでやると、自動的にキャラクターを生成するというワケのわからない、あるいは非常に便利な機能が実装されています。なんでもいいんです。「鼻毛、サングラス、歩くの速い、泣き虫」とか放り込んでやれば、次の瞬間にはまゆみさんのなかで人間(じゃないものかもしれませんが)が出来上がっている。この異能というのは、見せられるたびに「なんなんだろうこれ」と思うことしきりです。
そんなわけで、こぽりんはしゃべります。
もともとこぽりんは俺のペットだったのですが、俺があまりに放置プレイをしているうちにまゆみさんに懐いてしまったようです。いちおー形式上俺のことは「ご主人様」と呼んでますが、その評価と来た日には「ご主人さまはハゲだしおなか出てるし足くさいし最悪ですね」程度のものです。
俺としてはそんなものをほっとくわけにはいかないので、もともと球形がブッ潰れたみたいな形してる物体であるところのこぽりんの上に座って、完全に座布団状にしてしまう機会を狙っているわけです。
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