俺は基本的にいつも掃除が行き届いてる家庭で育ちました。というか親がちょっと病的な人で、床になにかが置いてある状態を許さないのです。
まゆみさんは、いつもなんとなく散らかっている家庭で育ったようです。
さて。そのせいなのかどうか知りませんが、俺には家のなかで「足元を確認してから歩く」という習慣がありません。したがって、よほど大きいものならともかく、小さいものがあっても気がつかなくてよく踏みます。
まゆみさんは「物があってあたりまえ」と思っているので、床に物を置くことに躊躇がありません。
ここで、生活習慣における深刻な衝突が発生します。
つまり、まゆみさんが床に置いたものを俺が蹴飛ばすのです。
このあいだは、煮物かなんかの惣菜のうち、しいたけだけよけて置いてあったものを俺が蹴飛ばし、床一面にしいたけが散乱するという悲劇が発生しました。ちなみにまゆみさんにとってきのこ類はすべて敵性物質です。もともと過度のアレルギー持ちで、菌類、発酵食品はすべてだめらしいんですが、それにも増して、きのことかの裏側が許せないそうです。気持ち悪くてたまらないそうで、そんなものを口に入れること自体に拒絶反応があるみたいです。この話を聞くたびに、俺は、祖母の「うなぎの現物を見て以来、うなぎまったく食えなくなった」という話を思い出します。でもアナゴとかは食べるんだよ。意味わかんない。
俺にとってまゆみさんの部屋は危険地帯です。まゆみさんにとってたいせつなもの、踏んではいけないものが一帯に散らばっています。足の踏み場は確保されてるんですが、俺はバランス感覚が尋常じゃなく悪いので、その踏み場を選んで歩いているうちによろけるのです。そしてあらぬ方向に足を踏み出して二次災害を引き起こします。
よく物にぶつかってあるく人っているんですが、あれって基本的に生活習慣の問題なんじゃないでしょうか。まゆみさんみたいに「これから進む方向にあるドアの間隔を目測して、ぶつからなければそのまま通る」みたいに極端な例は稀としても、のびのび振舞っても平気なブルジョアジーな環境で育った人って、家のなかで進む方向を確認しないで移動を始めるんじゃないかと。俺は狭い家で育ちましたが、上述のように、いつも完璧にかたづいていたため、確認する必要がなかったのです。
まあ、どういう言い訳をしてもですね、結局しいたけをばらまいたという罪は消えないんですが。つーかこの件に関してだけは俺にも主張はあるぞ。
まさか床に食べ残しというか、分別されたしいたけが置いてあるなんてだれも思わないだろう……。かなり非日常的な光景だったよ……。
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