というわけで、まゆみさんの日記を全部こっちに動かしてきました。えむけーつーがありえない勢いで爆裂更新を始めたわけではありません。
今後は、二人がてきとーに気が向いたときになんとなく更新をするような感じになると思います。カテゴリーという便利なものがあるんですから、最初からこうしておけばよかったなあとも思います。
今日は俺とまゆみさんが二人とも昼間に仕事でした。で、仕事が終わってからタバコとか服とか買いに行ってきました。
あと、今日は店に、絶叫する少年が来ました。なんかの病気なんだと思いますけど。とにかくすごい奇声を発するんです。意味がない言葉ならまだしも、今日は、店を出る瞬間に「シャチが出たッッッ!!!」と絶叫してました。またずいぶんニッチなものが出現したもんです。
あと思い出したように昔店に来てた変な客の話でも書こうと思います。これ、過去にどこかで書いたことがあるんで、読んだことある方はスルーで。……あれ。このブログになってから書いたんだったかな。以前の日記だったかな。まあいいや。そんなに過去の文章まで遡って読んでる人はそう多くないでしょうから。
以前、横浜で雇われ店長やってたときのことなんですけど、常連にやっぱりいたんですよ。ものすごい感度良好な電波受信してる人が。30歳ちょっとくらいでしょうか。あれはアンテナ15本くらい立ってたと思いますけど。いつもにこにことにやにやの中間くらいの笑顔を浮かべながら店に入ってきて、とにかくずっと一人でしゃべってるんです。
「よっちゃんだーめ、テレビの見すぎ」
「よっちゃん、それはチャンネルが違う」
「お父さんがね」
「それはお母さんの」
ほかにもいろいろあったと思うんですが、目立ったところでは上の4つのセリフが多かったです。よっちゃんというのが一人称であるのか、それとも彼にしか見えない親友なのかはわかりにくいところです。おそらく彼自身がよっちゃんなのだと思うんですけど。
週に数回は来るんですが、そのたびごとにマヨネーズとケチャップを買っていきます。飲んでるんじゃねえかと思うくらい。カバンのファスナーが開いてることが多かったんですが、そのカバンのなかにもケチャップ入ってたような気がします。
まあそんなわけで、よっちゃんはわりと店内での有名人だったわけです。
そしてこういう電波系の客は、必ず俺を相手にしたときにおもしろいことをやらかすことになっています。
その日のよっちゃんはものすごい上機嫌だったと思います。あれ、陽気に左右されるのか、それとも潮の干満なのか、よくわかんないんですけど、きっと自然現象のなにかがよっちゃんに強く作用してるんじゃないかと思うんですけど。人間の社会ごとき小さいものによっちゃんが影響されてるとは俺には思えなかったんです。
いつもは笑いながら入ってくるよっちゃんは、その日は歌いながら入ってきました。もうその時点で一般人の基準からするとかなり高い場所にいるんですが、よっちゃん的には「今日はちょっと電波の飛びがいいから」とかその程度のことかもしれません。スポラディックE層とか出てたかもしれません。だとするとよっちゃんの電波は50メガヘルツくらいだろうか。
歌の内容ですが「まーぶるまーぶるまーぶるまーぶるまーぶるちょこれーと」でした。コンビニのドア開けて入ってくる客がいきなりこれ歌ってたらやっぱり怖いです。音程はどこまでも平板で、声はねっとりしていました。しかも「まーぶる」のうち後半の2つくらいしか聞こえなかったことを考えると、すでにドアの外でマーブルチョコレートはスタートしていたものと思われます。もっともよっちゃんとしてはテレビのCMどおりに歌わなければならない理由はあんまりないわけで、ひょっとしたら駅から店に着くあいだ、ずっと「まーぶるまーぶる」の無限エンドレスだったのかもしれません。いや、いつもどこから歩いてきてたんだろう。なんかものすごい大きな巡回ルートの一部にうちの店が組み込まれていた可能性もあるな……。なにしろよっちゃん、普通の基準じゃ判断できないしな……。
そんな感じで入ってきたよっちゃん、よっちゃん以外のだれにも見えない友だちや家族との会話も絶好調です。お父さんやお母さんが登場するのはもちろん、晩ごはんのおかずや(たぶんケチャップとマヨネーズがいっぱいかかってる)、そのほか俺ごときにはまったく理解できない超理論による会話がえんえんと続いていました。
そしていつもどおりケチャップやマヨネーズをカゴに入れて、レジのほうへと向かってきます。レジの近辺に来るまでなぜかおちんちんネタが絶賛展開中でした。
「よっちゃんそれはおちんちん」
俺の発狂するような妄想力をしても、もうよっちゃんのなかで展開している風景がまるでわかりません。無理やり想像するなら、たぶんおちんちんは独立した存在として歩いているんじゃないかと思うんですが。しまいには、
「おちんちん?」
「うん。おちんちん」
おまえそれねえよ! おちんちん語とかねえよ!
レジに立っている俺は(というかバイト全員レジから逃げやがった)、30歳そこそこの人が発する単語としては極めて禁忌に近いものを連発しながらレジに近づいてくる人間をじっと待ち受けるしかないのです。すごい逃げたいです。
しかしこの日のよっちゃんの切れ味はこれにとどまりませんでした。
ふつうあの手の人って、リアルの人間とは目が合わないはずなんです。受信した電波に含まれた世界を見ているはずで、リアルは壁の向こう側、というか自分には意味のわからない世界として映っているんじゃないかと想像するんですが。
よっちゃんはレジの直前までおちんちんネタを続けていましたが、カゴをレジに置いた瞬間です。はっきりと俺の目を見ました。本来彼にはないと考えられる明確な理性すら宿した瞳だったような気がします。ありえない。それはありえない。いったいどういうことだ。俺は、常とは違うよっちゃんの態度に、自分側の態度を決めかねていました。しかしなにがしかの解答を出そうとしたその瞬間、よっちゃんはものすごい裾払いで俺の意識を粉砕しました。
理性的な瞳のよっちゃんは、厳かに宣告するように言いました。
「P&Gです」
永遠かと思われるような硬直した時間でした。間のとりかたといい、発生といい、まさにCMどおりの「P&G」でした。しかも混乱する俺をあざ笑うかのように、よっちゃんはまたすぐ、お母さんとお父さんとおちんちんが絡み合う謎会話の世界に戻っていったのです。
順番を整頓します。
・お父さんがね、お母さんがね、よっちゃんだーめ。テレビの見すぎ。
・おちんちん? うん。おちんちんだね。
・カゴをレジにドンと置いて俺を見る。
・P&Gです。
・おちんちんは左だね。だーめ、右はだめー。
まったく意味がわかりません。ただ、俺がよっちゃんに敗北したのは確かです。勝ち負けの問題じゃないと思われるかもしれません。しかし、まーぶるまーぶると歌いながらドアを開けて帰っていくよっちゃんの後姿を見ていたとき、俺は確かに敗北感を覚えていました。
今日もよっちゃんは、どこかでだれかを混乱の渦に陥れているのかもしれません。それともやっぱり、あの「P&Gです」は、俺に対するなにかのメッセージだったのかもしれません。そしてよっちゃん、やっぱりそのケチャップとマヨネーズ、どうしてるのか気になってしかたないよ。
このへんの俺の持ちネタとしては、あとは「下された暗殺指令」というのと「往復くん登場」という二つがあります。気が向いたら書くかもしれません。
ところでこの日記にはまゆみさんが登場しないのですが、実はまゆみさんもよっちゃんを知っています。まゆみさんの気が向いたらそれを書いてくれるかもしれません。
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