店でのお話です。
アルバイトで、高校2年生男子を採用しました。
採用の連絡をするあたりでレジがアホみたいに混みあって、ちょっとばかり連絡が遅くなりました。とはいえそれは、いつもきつきつのシフトで回していて、オーナー自身も労働力であるうちの店ではよくあることなので、面接のときにあらかじめ「30分くらい連絡時間が前後する可能性があります」ということを言っておくわけです。
面接した子は、うちの女子高生バイト2人と知り合いでした。通常だったら店内に知り合いがいる場合は採用しないのですが、この人手不足の折、贅沢なんぞ言ってられません。面接での印象がまともなら即採用くらいの勢いであります。
で、しばらくレジ打ってたんですが、そこに女子高生バイトが話しかけてきました。
「面接した○○(呼び捨て)、なんか泣いてますよ」
「は?」
話を聞いてみると、時間になっても連絡が来ないので、不採用になったと思ってうちのバイトの女子高生に電話をしてきたらしい。泣きながら。
ちょっと頭のなかでいろんなことが結線しなくなりました。
・えーと、あらかじめ時間が前後するってことは言ってあったはず。
・って、泣いて電話って。男だろ? 高校生だろ? もし不採用だとしても、それで泣くかふつう。
・いや、泣くところまではいいとして、わざわざ女に電話して泣くか?
とはいえまあ、なんとかしなきゃならん。本来だったらもう退勤してる女子高生2人にレジ打たせて慌てて電話。ものすごい鼻声で、ぐずぐず言っている当人が出たんで、採用の旨伝える。
ちなみに電話が終わって、レジもひと段落ついたんで、女子高生と雑談。
「……泣くか、ふつう」
「なんか繊細な感じの子だしね」
「うんうん。かわいいところあるよね」
「うん。かわいーよね」
かわいい? え、情けないとかじゃなくて?
意味がわからなくなってきたんで、質問を重ねる。
「でもさー、男ってあんま泣かないもんだと思ってんだけど。これが女だったらどうよ。不採用で泣いちゃう女」
「えー、うざい」
「なに酔ってんだって感じだよね」
え。そういうもんなんすか。
ほんとにそういうもんなんすか?
さて、特殊例をもって全体を敷衍するのはあんまり頭のいい行為とは呼べないわけです。が、個別の例に全体の流れが表れている、というのもまたよくあることでもあります。
俺が驚いたのは、まあ面接で落とされて泣く男子高校生がいることもそうなんですが、それをもってして「かわいいよね」と評する女子高生がいたということです。2人は、確かに際立って気が強いほうではあるんですが、かといって異常と呼べるほどの特徴があるわけでもありません。問題の男子高校生は確かに顔面はそこそこ整っているので、そういう意味ではより「許されている」感は強いのかもしれないですけど、かといって「かわいいよね」と揶揄の意味を含まずにストレートに評価されるってのもどうなんだろう、と思うのです。
俺は別に男尊女卑の人でもないし、その逆でもないです。性別というものに「肉体の違い」以外にどういう意味も見出さない人です。その意味では世間の標準からみて、いちばんラディカルな場所にいるといってもいいくらいです。
しかしその俺をもってしても「男が人前で泣くのはどうなんだろう。ましてやそのことで(いくら面接をした当の職場で働いてるからといって)女に電話して泣きつくのはどうなんだろう」という素朴な信仰めいたものは持っていたわけです。それが36歳の限界ってやつでしょうか。そういう問題じゃないような気がするんだけど。
この手の男と女の問題については、俺はずいぶんと前からことあるごとにテキストに書いてます。ずっとバイトを使う仕事をしてきたこともあって、主な観察対象は、そのときどきの高校生になるわけなります。
バイトを使う仕事をしてる人は似たようなことを感じてると思うんですが、たとえば15年前だと「高校生の場合、女はまず使えない」という先入観を持っていて、ほぼ正解だったんです。先入観なんてロクなもんじゃないですが、少なくとも面接での印象が似たようなレベルだったとしたら、先入観にもとづいて男を採用しておいてほぼまちがいなかった、ということです。ちなみに15年前当時、若い主婦は採用しちゃだめだ、というのも先入観としてありました。あくまで全体的な趨勢としてです。個別に考えれば話はぜんぜん別です。
しかし15年後の現在、この評価は完全に逆転しています。高校生の男はまず採用しちゃいかん、という先入観を持っていて、だいたいそれで正解です。とにかく、異常なくらい打たれ弱い。失敗すること、そしてそこから自力で物事を学んで「よくなること」。こうした部分がまったくといっていいほど機能してない。素直さという点では昔よりもいいんですが、いかんせんすぐ拗ねる。我慢ができない。ルールに従うことができない(これは男女問わず最近の高校生全体の傾向としてありますが、男のほうが程度はひどい)。
さて、件の新人くんですが、今日、初日研修でした。うちの初日研修は、店の仕事内容とか心構えについて2時間徹底的に説明しまくるという、ほとんどなんかのセミナーじみたものです。実際のところ説明しなければならないことは多く、しかも最初にある程度説明しておかないと、あとになってからでは身につかないことが多いのです。そして、厳しいです。最初のうち厳しくしておかないと、あとになって「これは仕事なんだからちゃんとやれ」と要求したところで、それが本当の意味では相手に通じないことが多いのです。
高校生あたりだと、そう集中力は長く続くもんじゃないですし、人の話を聞いてるフリをする、なんて器用なこともできません。必然的に飽きてくるんですが、そのときに「この説明を聞くことも金のうちだから。ちゃんと聞かないってことは、金もらうに値しない仕事してるってことだぜ。そんなことは許されてないよ」というようなかなり厳しい言いかたをするのです。それでだいたいは引き締まります。
しかしこの彼の反応はひと味違っていました。
じっと不服そうな顔をしてこちらを睨むのです。えーと、表情としては拗ねてるに近い。「なんでそんなことを言われなきゃいけないんだ」みたいな。それでもって、そこからしばらくは話をまともに聞かない。で、話を聞かないことを責めると、今度は泣きそうな顔になる。泣かれたら厄介ですから、こっちだってトーンダウンです。
おそらく彼の内面の理屈はこうでしょう。
「自分は無条件で愛され、また機嫌をとってもらうべき存在なのに、こいつは意味わからない理屈で自分を責める。話聞いてもらいたいならおもしろく話せ。なにがわからないか察して当然だろ」
わかりやすくするために極端にしてますが、おそらくそう外れてないと思います。で、これって、俺の知ってる限り、いわゆる「女」のメンタリティなんです。あくまでカギカッコ付きの、ですけど。俺は、このタイプとは猛烈に相性が悪いので、特に鋭敏です。具体的には外見がよくてちやほやされてるタイプの女。
で、一方ではそれを「かわいい」と表現する女がいる。
このことは、今回だけのよほど特殊なケースなのかもしれないんですが、少なくとも俺の目の前でその特殊例が展開されたことは事実です。そして特殊例かもしれないけれど、少なくともこの手の男を「かわいい」と評価する価値観というものが、そう特殊なものではないということ、つまらないことで男が女に電話して泣き言(文字どおり)を言うことがさほど異常な行為ではない、というのはほぼ確実かと思います。
俺は常に現状追認しかしない人なので、そういうことがあれば「ああ、そういうものなのか」としか思わないんですが、従来の男女の価値観、ありかたというものが、大きく変化してきているのはまちがいないんだろうなーと思います。
そこで思い出すのが「せつなくて危険な恋がいっぱい」と銘打たれたような、若年女性層向けのエロマンガ雑誌です。ああいう雑誌に登場する男の類型が、完全な俺様男か、あるいはペットっぽいしっぽついてるわんわんっぽい男かに二極分化してることは興味深いです。
ちなみにまゆみさんにこの話をしたところ、以下のような返答でした。
「それは、あれだろ。女がタイプ別に分かれてきてるんだよ。男が使えないから自立するか、あるいはオンナを売りものにして利用できる男をつかまえるか、男に依存するか」
ちなみに男のほうについては、
「そんなもんだろ」
の一言で終わりでした。もはやそこになんの感慨もありません。
俺の過去のテキストをご存知の方は、まちがっても俺が「男らしさ」に拘泥する人間ではないことを、かなり微妙な感覚とともに知っていると思います。具体的には「女の子になりたかった……!」とか素で言えちゃうような人なんですが。
しかしそんな俺でも、ここまで情けない物体を見てしまうと、なんとはなしに不快感のようなものがある、ということに驚きました。もっとも、男女を問わずにこういう存在のことはあまり好きではないですけど。
しかしまー、なんつーか。時代も変わったなあ。変わったところで俺にとっては、バイトは、仕事できるかどうかがすべてなんで、まあどうでもいいっちゃどうでもいいんですけど。
しかしなあ、泣くかなあ。ふつう(以下無限ループ)。
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